
Belgian IPA
ベルジャンIPAとは?アメリカンIPAとの違いと生い立ち
クラフトビールの看板スタイルであるIPA(インディア・ペールエール)に、ベルギーの醸造文化が答えたのが「ベルジャンIPA」です。柑橘やトロピカルフルーツのホップ香はそのままに、ベルギー酵母のスパイシーで華やかな香りが重なる。IPA好きにもベルギービール好きにも「二度おいしい」スタイルの背景と、普通のIPAとの違いを整理します。
ベルジャンIPAとは?一言でいえば「ホップ×ベルギー酵母」
ベルジャンIPAは、アメリカンIPA譲りのたっぷりしたホップ(柑橘、松、トロピカルフルーツの香り)と、ベルギー酵母が生む果実香・スパイス香を掛け合わせたスタイルです。度数は6〜9%前後とやや高めのものが中心です。
ベルギー酵母は発酵中に、洋梨やリンゴを思わせるエステル香、コショウやクローブのようなフェノール香を生み出します。この「酵母の顔」がはっきりあることが、ベルジャンIPAを名乗る最大の条件と言ってよいでしょう。
さらに糖をしっかり食べ切る酵母の性質と瓶内二次発酵の伝統により、後味はドライで炭酸は細かく強め。ホップの苦味が残りすぎず、するっと切れていくのもベルギー流です。
アメリカンIPAと何が違う?
最大の違いは酵母です。アメリカンIPAは酵母の個性を抑えてホップを主役に立てるのに対し、ベルジャンIPAは酵母の果実香・スパイス香がホップと同格の主役。グラスに鼻を近づけたとき、柑橘の奥にコショウや洋梨のニュアンスを感じたら、それがベルギー酵母の仕事です。
もうひとつは後味。カラメル的な甘みを残すタイプのIPAと比べ、ベルジャンIPAは発酵度が高くドライに仕上がるものが多数派です。度数のわりに飲み口が軽く感じられるのはこのためです。
「トリプルにホップを足したもの」と説明されることもあるように、ベースをトリプルやブロンドに置いた設計が多いのも特徴です。トリプル好きがIPAに入る入口としても、IPA好きがベルギーに入る入口としても機能します。
生い立ち — アメリカへの「返歌」として
源流のひとつは、1990年代のデ・ランケ「XXビター」。ホップ嫌いが増えた時代に、あえて振り切った苦味を打ち出した先駆者で、ベルギーにおけるホップ復権の象徴になりました。
そして2000年代半ば、アメリカのクラフトシーンでベルギー酵母への憧れが高まる一方、ベルギー側もアメリカンホップを取り入れた実験を始めます。アシュフ醸造所の「ウブロン・シューフ」のように、トリプルの骨格にIPAのホップを効かせた銘柄が相次いで登場し、「ベルジャンIPA」というスタイル名が定着しました。
いまではデュベルの「トリプルホップ」シリーズやヴェデットIPA、デリリウム・アルゼンタムなど、大手から小規模醸造所まで幅広い担い手がいます。大西洋を挟んだキャッチボールから生まれた、いちばん新しい「ベルギーの伝統」です。
最初の一本と飲み比べの進め方
入門には、トリプルの厚みとホップの香りのバランスがよいウブロン・シューフか、軽快で手に取りやすいヴェデットIPAがおすすめ。ホップの鮮烈さを突き詰めたいならデュベル・トリプルホップ、苦味の原点に触れたいならXXビターへ進んでください。
飲み比べるときは、温度を8度前後からゆっくり上げながら、前半のホップ香と後半にせり上がる酵母の香りの入れ替わりに注目すると、このスタイルの二重奏がよく分かります。
